先日気づいたのだが、最近、バイクのテレビCMがない。
 原付バイクは庶民の足で、以前はテレビでCMがバンバン流れていた。
 女性向けのちょい乗りバイクとして発売されたホンダのラッタッタにはフランスの大物女優ソフィア・ローレンが起用されていたし、たしかスズキのジェンマには、マカロニウェスタンの大スターであるジュリアーノ・ジェンマが出ていたはずだ。
 ヤマハの実用車メイトは低燃費が売り物で、「乗ってる乗ってる乗ってるヤマハメイト、メイトに乗れば安上がり」というCMソングがあり、それをもじった「乗ってる乗ってる乗ってるウチのかあちゃん、女房に乗れば安上がり」という、外で女遊びや浮気をせずに家で事を済ませれば経済的だ、という替え歌が流行った。
 ところが、今はバイクのCMが全然流れていない。
 
  
  
 おそらく、バイク人気が下火になったからだろう。
 ホルヘが高校生のころは、男子の約半数がバイクに興味を持っていた。
 暴走族全盛期だったので、不良少年にとってバイクは必須アイテム。
 通学にバイクを利用している真面目な学生もかなりいた。
 しかし現在は暴走族が絶滅危惧種になっているし、街中でもバイクが少ないように感じる。
 以前は主婦がラッタッタやパッソルで買い物に行ったものだが、それが電動アシスト自転車に取って代わられている。
  
  
 となると二輪メーカーは軒並み不振なのかというと、そうでもないようだ。
 国内で売れなくても、海外市場でもうかっているのだろう。
 そういえば、アルゼンチンのラヌースのスポンサーはヤマハだ。
 そして街中には、150㏄クラスのバイクが多い。
 しかしヤマハ車やホンダ車は少なく、世界的には無名のメーカー数社がシェアを占めている。
 日本車は価格が高いため敬遠されてしまうのだろう。
 
  
  
 たしかに都会はこのような状況だが、数年前に会ったホンダの現地社員によると、地方ではスーパーカブなどの日本製実用車が大人気なのだそうだ。
 田舎は修理工場も近くになく、でこぼこ道が多い。
 日本車は故障が少なく悪路に強いため、高価でも引っ張りだこというわけだ。
  
  
 日本国内では二輪ばかりか若者の自動車離れが深刻な問題だという。
 免許取得率も低下の一途らしい。
 昔の男子は、高校を出たら免許を取るのが当たり前だった。
 就職に際して必要ということもあったが、マイカーを手に入れてドライブデートをするのが夢だった。
 自動車という個室の中で異性と二人きりになるのは、それだけで男女の関係が大きく前進するような気持になる。
 そこから進展して深い仲となった男女にとって、自動車は個室として別の役割を果たす。
 当時の若者の間では、カーセックスは割と一般的なものだった。
 カーセックスの名所を紹介したり、車中での体位を特集した雑誌なども売られていた。
 「カブトムシ」の愛称で親しまれたワーゲンは、車体が揺れたときにつかまるための吊り輪があった。
 車内の側面上部に、革製の輪が付いていた。
 ここに女性の足首を引っかけるという体位の紹介があり、若き日のホルヘはそれを読んで大興奮したものだ。
  
  
 昔は肉食男子が多く、彼らが自動車の売り上げに貢献していたが、草食系が主流となった現在は、若者はお得意さんではなくなった。
 しかし車は移動手段、運搬手段として社会に不可欠なものなので、単車と異なりテレビCMは続いている。
  
  
 そんな中ホルヘが感動したのは、菅田将暉と中条あやみが、「あなたに会いたくて~」と歌っているCMだ。
 最後にさらっと「カローラスポーツ」のナレーションがあるだけで、車種やトヨタブランドを売り込んでいるわけではない。
 このCMは、若者が自動車に興味を持つようにすることを目的とした啓蒙活動だろう。
 
  
  
 中条あやみのアップで、彼女を助手席に乗せるとこんなに近づくことができることをアピール。
 そしてあの笑顔で、ドライブは女性を喜ばせるものだと思わせる。
 何かに打ち込む男性の横顔はポイントが高いので、運転している菅田将暉の横顔を挿入。
 助手席に座れば、彼氏の横顔をずっと見ていられると伝える。
 そして車を持っている彼氏は、彼女が行きたいところへ連れて行ってくれるという願望を刺激。
 男女両方の視点から、「ドライブデートしたい」と思わせる作りとなっている。
  
  
 実はホルヘ、中条あやみが嫌いだ。
 顔立ちが生理的に合わないこともあるのだが、映画の宣伝での一言が気に入らなかった。
 学園一の美女と地味な男子生徒とのラブストリー映画だったが、「学園一の美女の私と・・・」という発言が、「私は美女よ」といっているように感じられ、勝手に「傲慢な女」と思い込んでしまった。
 しかしそれでも、このCMは素晴らしいと思う。
 おそらく多くのCMプランナーが、この作品に嫉妬していることだろう。
