これまで何度も書いたが、アルゼンチンは3月20日に強制力のあるロックダウンを行い国境も封鎖した。
WHOがパンデミック宣言を出してすぐのことで、新型コロナ対策の動きは、すでに被害が出ていた国々を除けば世界的に早かった。
1日の国内感染者数は数十人台で推移していた。
ロックダウンは延長を重ね、やがて感染者数は減少に向かうと思いきや、5月8日に初の200人超え。
そして約40日後の6月19日には、その10倍の2000人を突破した。
この日の死者は31人に達している。
 
 
とはいえ、感染者のほとんどが首都圏のスラム街を発生源としたもので、他地域ではロックダウンも解除されている。
首都圏でも散歩やジョギングが許されるようになったが、時間は限定で午後8時から午前8時まで。
店舗も業種や地区指定などの条件付きながら徐々に営業再開している。
しかし感染者数が大幅に減少しない限り、厳しい制限は解除されないだろう。
ホルヘはいつになったらブエノスアイレスに戻れるのか。
昨日、8月上旬になれば大丈夫かと思い、エアーチケットのサイトを開いた。
しかし、渡航先を選択するタイプのサイトにブエノスは出てこないし、自分で入力するサイトでは、記入して「検索」をクリックしてもエラー画面となってしまう。
現段階では国境封鎖状況なので、航空会社も再開後の予定が立てられず、サイトにも載せられないようだ。
 
 
フェルナンデス大統領は、アルゼンチン国民と永住権保持者で希望する者は帰国させる、といっている。
おそらく、滞在国のアルゼンチン大使館に帰国希望を伝えると、そうした人たちを渡航可能などこかの国に集め、そこからアルゼンチン航空のチャーター機で運ぶのだろう。
ホルヘも永住権はあるものの、この方法を使う気はない。
ブエノスのマンションの管理費や光熱費が引き落とされる銀行口座の残高が心細くなり、「早く行かなければ」と思ったこともあったが、知人が入金してくれたので一安心。
当初は、アルゼンチンの銀行にドル口座を持っている知人を探し、そこへ日本からドルを送金して、それをペソに両替の上、ホルヘの口座に入金してもらおうと考えていた。
しかし外貨不足で為替に厳しいアルゼンチンでは、外国から口座にドルを送金された場合、送金者から別送された所定の書類を中央銀行に提示しないと、そのドルは送金者へ戻されてしまうのだという。
非常に面倒だ。
しかもペソへの両替が闇レートの約半分の公式レートになってしまう。
そんな中、「俺の口座から振り込んでやるよ」と助け舟を出してくれた人がいて、その言葉に甘えることとした。
 
 
実はホルヘ、アルゼンチンの銀行で振り込みをしたことがない。
支払いなどでどこかの会社や他人の口座へお金を入れたことはあるが、それは振り込みではなかった。
日本の銀行およびATMでは、他人の口座にお金を入れる場合、それは振り込みとなる。
まずATMの「振り込み」をタッチして、相手の口座番号を押して入金だ。
しかしアルゼンチンのATMでは、同行の口座で現金での入金ならば、「振り込み」ではなく「預金」をタッチしてのスタートとなる。
振込先口座の通帳やカードがなくても、口座番号だけで「預金」扱いとなるのだ。
 
 
ということで、これまで振り込みへの知識まるでなかったのだが、今回の件では外出禁止中ということもあり、ネットバンキングで振り込んでもらうこととなった。
すると先方から、「あなたのCUITとCBUを教えてくれ」とのメール。
CUITは身分証明書番号をベースとした、納税者番号のようなもの。
CBUは口座に紐づけられた22桁の番号。
こんなもの今まで使ったことはないし、振り込みに必要だとも知らなかった。
書類をひっくり返して探した末に見つけたが、見つからなければ振り込んでもらえないところだった。
 
 
さて、アルゼンチンとは桁違いの感染者と死者を出しているブラジルで16日、カンペオナット・カリオカ(リオ州選手権)の再開が決まった。
しかも再開日は翌々日の18日という性急なもの。
この大会は2グループに分かれて1回戦の総当たり後、各グループの上位2チームがベスト4となって準決勝、決勝を行うシステム。
リーグ戦残り2節で中断し、各クラブは再開に向けてトレーニングは行っていた。
日程の関係からリオ協会は早い再開を望み、16日の会議は8時間に及んだ。
リオのビッグ4であるフルミネンセと本田が加入したボタフォゴは、「再開は早すぎる」と反対の立場で、両クラブとも今節の試合は22日に組み入れられた。
両クラブは再開延期をスポーツ裁判所に申し立てたが、一審では破棄されている。
クラブ首脳らが試合のボイコットも口にしており、22日の試合が無事に行われるかは不透明だ。
 
 
アメリカでは警官による黒人殺害が連続して世界的な注目を集めているが、メキシコでも警官の殺人が起こった。
メキシコは麻薬戦争の真っただ中で、ギャング同士の殺し合いだけでなく警官の犠牲者も多い。
したがって警官も、護身の思いが強くなることで攻撃的、暴力的になっているようだ。
被害者は16歳の少年で、仲間とバイクで買い物に行ったところパトカーと遭遇。
警官は彼らを泥棒かギャング集団と思い、すぐに威嚇射撃を行い「止まれ」と命令。
発砲に驚いた少年たちは逃げ出し、警官は威嚇でなく狙って射撃。
それがアレクサンデルの頭部に命中した。
彼は不良ではなく、ラジャードスというクラブのユースに所属し、プロサッカー選手を目指す若者だった。
 
 
葬儀では、サッカー仲間が彼の棺をサッカー場へ運び、最後のゴールを決めさせてアレクサンデルに別れを告げた。
しかしこのような海外の葬儀を見るたびに、日本との違いを実感する。
参列者の服装は普段着で、なにより日本なら、棺桶にサッカーボールを当てるのは死者への冒涜と考えそうだし、遺族はこんな趣向を許さないだろう。
しかしアレクサンデルの立場なら、これは嬉しいのではないか。
諸外国の多くでは死者や残された人々の想いを重視し、日本では格式を重んじるということのようだ。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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