アルゼンチンで忍者道場に潜入してきた。
きっかけは、クリスティアンという警官と知り合ったこと。
ホルヘが銀行の前に設置してあるATMに金を引き出しに行くと、
警備をしていた警官が、「これは今使えないので、銀行内の機械を使ってくれ」と案内してくれた。
そして、「ニホンジンデスカ?」と尋ねてきた。
この警官がクリスティアンで、日本語の勉強をしているという。
その後銀行の前を通るたびに立ち話をするようになり、彼が武神館なる忍者道場に通っていることを知った。
その説明の中に、「戸隠流」とか「初見先生」という言葉が出てきた。
ホルヘは小学生時代、忍者入門とかいう初見良昭著の本を熱心に読んでいたので、たちまち忍者トークで盛り上がった。
そして、「稽古を見学させてくれ」と頼むに至った。
道場といっても、場所はカルチャーセンターのホール。
師範のパブロは何度も日本に行って修業を積んだそうで、日本語も上手い。
武人館は戸隠流などの忍術の他に、体術や骨法という格闘技を合わせた9流派で構成されている。
世界中にいくつもの道場があり、どうやら日本より海外で人気が高いようだ。
ホールの上座には神棚らしきものが祭られていたが、
初見宗家の写真やローソク、線香があり、なにやら仏壇みたいだ。
たしか、初見良昭はまだご存命のはずだが。
しかし、それも宗家への尊敬の念によるもの。
高齢で小柄な宗家が約2メートルのオランダ人を子ども扱いしたのを、パブロは目の当たりにしたという。
弟子の中にはセリアという女性もいた。
女忍者が「クノイチ」だということまでは知っていたが、その語源は分からなかったので、
「漢字の『女』は分解すると『くノ一』だからだ」と教え、感謝された。
稽古の内容は、忍者的なものから現代社会でも役に立つ護身術まで千差万別。
パブロが稽古用の鎖ガマで襲いかかり、弟子にそれをかわさせるのは迫力があった。
かわし損ねると、「おまえは死んだ」と怒られる。
子どもの頃にやった忍者ごっこを思い出し、入門しようかとフト思った。