20年ほど前に、「悪魔ちゃん事件」というのが世間の注目を集めた。

生まれた息子に「悪魔」と名付けて出生届を提出した親と、一度は受理したものの、

その名は不適切なので認めないとした行政が裁判で争った事件だった。

その後、娘に女性器の俗称を付けようとして問題になったケースもあった。

そのときの親が、「スペインやチリでは、女性器を指すコンチャやコンチータが

名前として使われている」と主張していた記憶がある。

コンチャとは貝のことで、コンチータとは「小さな貝」とか「貝ちゃん」といったところ。

古今東西、貝はその姿から女性器の隠語や別称に用いられることが多い。

しかしコンチャはあくまでも貝であり、女性器ではない。

ところがややこしいことに、アルゼンチンでは、コンチャといえば100%女性器のこと。

貝を指すときは、もうひとつの言葉であるマリスコを使う。

他の国では一般的に使われるコヘール(拾う)という動詞も、アルゼンチンでは性行為の意味になる。

同じスペイン語圏でも、言葉はそれぞれの国で異なっている。

アルゼンチンでも、赤ん坊への命名には規制がある。

移民の国なので、移住者が息子や娘に母国の名前を付けると収拾がつかなくなるから、

ということで規制されているらしい。

日系人家庭では子供に日本名を付けることがあるが、その多くは家庭内ネーム。

家族や友達からアキラと呼ばれていても、正式な名前はルイス・フェルナンドだったりする。

親がスポーツ選手や俳優、歌手の大ファンだと、子供にその名前を付けることはよくある。

本田のファンは息子に圭佑と付けたりするだろう。

アルゼンチンでも同様に、息子にリオネルと付けるメッシファンは多い。

しかし、「あんな選手は見たことないし、これからも現れない。女房も彼の謙虚な姿勢が大好きだ」と

メッシを絶賛するリオ・ネグロ州のエクトルは、先日生まれた長男に、名前のリオネルでなく名字のメッシを付けた。

本田ファンの山田さんが、息子を本田と名付け、山田本田という漫才師みたいな氏名になったようなものだ。

これは名字であるメッシが名前として認められた初めてのケース。

これを機に今後は多くのメッシ君が生まれるかと思いきや、サンタフェなどの主だった役所が、

「名字を名前にするのは法律違反で認められない。付けるならリオネルにするように」との声明を発表。

エクトルの息子に続くメッシ2号3号の誕生がおぼつかなくなったばかりか、1号の存続も危うくなっている。

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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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