数年前、アルゼンチンでジムに通っていて、右手を痛めたことがある。
ダンベルやバーベルの使い方が悪かったか、オーバートレーニングだったと思う。
痛めたのは手のひらと甲の間。
つまり手の中だ。指の動かし方によっては、電気が走ったようにビリッと痛む。
それでもハシやパソコンは普通に使えるし、料理や食器洗いも大丈夫。
動作によって、1日に何度かビリッとくるものの、日常生活に支障はなかった。
したがって、治療もしなかったしジム通いも続けた。
治るまで2か月以上かかったので、腱の損傷か疲労骨折だったのかもしれない。
右手自身の動作でなく、ある外圧によって一番激しい痛みが生じた。
その外圧とは、人差し指側と小指側から中央へ向けて圧力をかけること。
これは要するに、握手のときの状態だ。
握手のたびに一番激しい痛みが襲う。
自分の動作でビリッときたのなら、すぐにその動きを止めればいい。
しかし、握手ではそうはいかない。
手を握り合った数秒間、ビリビリビリッという激痛が続く。
さすがにこれでは堪らない。
幸いなことに、アルゼンチンでは男同士でもキスで挨拶をする習慣がある。
そこで、握手は極力せずにキスで対応することにした。
しかし、ホルヘは元々これが嫌いだ。
だって、男同士のキスだ。
さすがに唇はつけず、頬と頬を合わせて「チュッ」とするだけだが、どうも慣れない。
アルゼンチン人とならまだいいが、完全に日本人の顔立ちをしている日系のオジサン相手だと、
気色悪いというか照れてしまう。
しかし背に腹は代えられず、しばらくは男とのキスに耽った。
先日ゴルフに行ったら、数ホール目で、あのときと同じ痛みが右手に走った。
そのまま最終ホールまでプレーしたので、症状は悪化の一途。
腫れはないが、甲が熱を持っている。
このままでは、再びキス地獄行きだ。
アルゼンチンに限らず諸外国の多くでは、シップ系の治療薬がない。
捻挫や打撲、腰痛の治療は飲み薬が一般的。
あとはバンテリンのような塗り薬だ。
ホルヘはサッカーなどでちょこちょこケガをするので、日本からシップ薬を持ってきている。
しかし、初期治療にはガンガン冷やすのが一番。
そのために、生鮮食品を買ったときに付いてくる保冷剤も5~6個用意してある。
もちろん日本のものだ。
こちらでは、こんな気の利いたものは見たことがない。
さらに準備の行き届いたことに、保冷剤を患部に固定するため、
マジックテープ付のゴムバンドまで100円ショップで買ってある。
保冷剤をハンカチで包みバンドで止めて2日間冷やし続けると、
熱も痛みもすっかり引き、それとともにキスの心配もなくなった。