ホルヘはこれでも、日本サッカー協会のC級コーチライセンスをもっている。
 
もっとも資格を取ったのは、「C級」などという言葉や分類がない約30年前のこと。
 
当時の名称は「公認リーダー」で、U-17代表の元監督にして
 
現在は協会で育成に携わる山口隆文氏と同期の受講だった。
 
 
 
今のC級を取得するには30時間強の講習を受ける必要があるが、公認リーダーはそれ以上だったと思う。
 
2カ月半に渡り、ほとんどの週末が東大の検見川グランドで1泊2日、水曜の夜は都内での講習だった。
 
 
 
ちなみに当時の検見川グランドというのは、代表が合宿するサッカーの聖地。
 
そこに宿泊してボールを蹴れるということで、ホルヘは非常に興奮したものだ。
 
しかし大家は東大で、本来は学生が利用するためのもの。
 
したがって施設の質や老朽化はかなりなものだった。
 
当時の日本は、代表チームがこのような環境で練習していたのだ。
 
 
 
そんなこんなでそれなりに苦労して公認リーダーを取得し、
 
その後、管轄が変わるなどの紆余曲折があり、現在のC級コーチへと移行した。
 
このようなライセンスは一度取れば安泰というわけでなく、
 
リフレッシュ研修会というものを受講しなければ失効してしまう。
 
そこでホルヘは先日、味スタに隣接するアミノバイタルフィールドで行われた研修会に行って来た。
 
 
 
初めて訪れたこのフィールドで驚いたのは、人工芝が素晴らしいことだった。
 
今では、市民が利用するスポーツ施設では当たり前となった人工芝だが、これにも歴史がある。
 
日本初の人工芝は、東京ドーム以前に巨人の本拠地だった後楽園球場に設置された。
 
天下の巨人軍、華の後楽園球場の御用達ということで、人工芝はとても高貴なものというイメージが浸透した。
 
 
 
サッカー界では、読売クラブの練習グランドが第1号だと思う。
 
ここではクラブの練習だけでなく外部の大会も行われ、参加する選手は、「人工芝で試合ができる」と喜んだものだ。
 
しかし当時の人工芝は品質が悪く、芝というより緑のカーペットに近かった。
 
 
 
その後、芝の部分が長いロングパイルやクッション性などの開発が進み、天然芝に近づくと同時に、
 
人工芝のメリットがより強調されるようになった。
 
メリットとは、コストの安さだ。
 
人工芝自体の価格も下がったうえ、メンテナンスがほぼ不要というのが売り。
 
経済難によるメンテ不足で、天然芝が滅茶苦茶になるのはよくあることだ。
 
 
 
2000年代からはFIFAが人工芝の普及に乗り出し、
 
古タイヤを粉砕したゴムチップを撒くエコタイプの人工芝を発展途上国に寄付。
 
またU-17ワールドカップ(フィンランド、ペルー大会)で実際に使用した。
 
 
 
ホルヘがこのタイプの人工芝を初めて見たのは、
 
2005年にクラブW杯に出場するコスタリカのサプリサを取材したときだった。
 
ホームスタジアムの芝がこれで、FIFAからのプレゼントだと自慢していた。
 
しかもグランドが荒れることを気にせず、練習でも毎日スタジアムを使えるというので、選手も喜んでいた。
  
 
 
このタイプはファーストバウンドが跳ね上がる他、ゴムチップがスパイクの中にウジャウジャと入るのが難点。
 
そして、真夏は黒いゴムチップが熱を吸収して熱くなる。
 
しかし、アミノバイタルフィールドの人工芝はゴムチップがなく、走った感じもボールのバウンドも違和感はなかった。
 
 
 
今年カナダで開催される女子W杯で人工芝が使われることで、一部の選手が「男女差別だ」と怒っているらしい。
 
これまで男子のW杯では使用されなかったので、女子W杯を軽視しているから差別だ、というのだ。
 
これに対しFIFAは、「寒冷地では天然芝のメンテナンスが難しいので人工芝にした。差別ではない」といっている。
 
 
 
このFIFAの言葉が本当であることを確かめたいのなら、反対した女子選手たちが、
 
「次のロシアW杯でも人工芝を使用しろ」と要求してみたらどうだろうか。
 
ロシアも寒冷地で、メンテは大変だ。
 
ここで人工芝を使えば、差別疑惑は晴れる。
 
たとえ選手から要求がなくとも、差別問題に厳しく取り組んでいるFIFAなのだから、
 
自ら動いて疑惑を払しょくするべきではないか。
 
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写真はサプリサにて。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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